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神戸地方裁判所 平成6年(行ウ)45号 判決 1998年3月25日

大阪府羽曳野市島泉九丁目六番一二号

原告

河村良彦

右訴訟代理人弁護士

川村和久

大阪府富田林市若松町西二丁目一六九七番地の一

被告西宮税務署長訴訟承継人

富田林税務署長 北川啓三

右指定代理人

草野功一

長田義博

寺田光伸

山村仁司

岡田豊一

主文

一  本件訴えのうち、西宮税務署長が原告の昭和六二年分所得税について平成三年二月一九日付けでした更正処分のうち、所得金額二〇六九万五五七〇円を超えない部分の取消しを求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  西宮税務署長が原告の昭和六二年分所得税について、平成三年二月一九日付けでした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六二年分の所得税につき、別表の確定申告欄記載のとおり確定申告をした(以下「本件確定申告」という。)。

2  西宮税務署長は、原告に対し、平成三年二月一九日付けで、昭和六二年分の所得税につき、別表の更正及び賦課決定欄記載のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件決定」といい、本件更正とあわせて「本件処分」)という。)をした。

本件処分は、原告が、昭和六二年九月二六日、大和地所株式会社(以下「大和地所」という。)との間で行った原告所有の別紙物件目録一記載の土地(以下「交換譲渡土地」という。)及び同目録二記載の建物(以下「交換譲渡建物」といい、交換譲渡土地とあわせて「交換譲渡資産」という。)と大和地所所有の同目録三記載の土地(以下「交換取得土地」という。)との交換契約(ただし、交換譲渡建物は交換差金とする。)(以下「本件交換」という。)につき、所得税法五八条一項(以下「交換特例」)という。)を適用することができないことを理由とするものである。

3  原告は、本件処分を不服として、西宮税務署長に対し、平成三年三月三〇日、別表の異議申立欄記載のとおり異議申立てをしたが、西宮税務署長は、平成三年六月一九日、右異議を棄却する旨の決定をした。

4  原告は、平成三年七月一二日、国税不服審判所長に対し、別表の審査請求欄記載のとおり審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成六年七月七日、右審査請求を棄却する裁決をした。

5  本件処分は、一事不再理、信義則及び適正手続に違反し、交換特例を適用せずに交換譲渡資産の時価と交換取得土地との差額(以下「本件差額」という。)相当額を大和地所から原告への利益供与と認定し、雑所得に該当するとした違法なものである。

6  よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  被告の本案前の主張

原告の行った本件確定申告における所得金額は二〇六九万五五七〇円であるところ、本件処分のうち、右所得金額を超えない部分は、その範囲内において所得のあることを原告が自認するものであるから、右範囲につき取消を求める訴えの利益はない。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし4の事実は認める。

2  請求原因5の事実は争う。

四  抗弁(本件処分の適法性)及び被告の主張

1  本件更正の適法性

原告の昭和六二年分における租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条一項の規定による長期譲渡所得の金額から長期譲渡所得の特別控除額(措置法三一条四項に規定する額)を控除した金額(以下「分離課税の長期譲渡所得金額」という。)は五四五〇万五二九二円、措置法三二条一項の規定による短期譲渡所得の金額(以下「分離課税の短期譲渡所得金額」という。)は〇円、総所得金額は三億五九四五万七一四九円、右に対する税額の合計額は二億二〇二三万三一〇〇円、申告納税額は二億一四二八万三八〇〇円であり、その内訳及び算出根拠は以下のとおりであるから、これと同額でなされた本件更正は適法である。

(一) 分離課税の長期譲渡所得金額

(1) 交換特例の否認について

原告が適用した交換特例を否認した根拠は以下のとおりである。

<1> 交換特例が適用されるのは、それぞれの資産の所有者がともに一年以上所有していた固定資産を交換した場合に限られるところ(所得税法五八条一項)、後記(ア)ないし(エ)の各事実に照らせば、交換取得土地は、大和地所の固定資産ではなく棚卸資産と認められるから、本件交換につき交換特例を適用することはできない。

(ア) 大和地所は、菊島アサコ(以下「菊島」という。)との間の昭和六〇年一〇月二八日付け不動産売買契約書に基づき、交換取得土地を二億四四六四万七四八〇円で取得し、同土地を昭和六一年二月二七日に商品土地の仕入として経理処理した。

(イ) 大和地所は、交換取得土地を取得した日を含む事業年度及びその翌事業年度の確定した決算において同土地を商品土地として棚卸資産に計上した。

(ウ) 大和地所は、交換取得土地の取得直後の昭和六一年四月二二日に、同土地を売却する目的で、アーバンライフ販売株式会社(以下「アーバンライフ」という。)との間で一般媒介契約を締結した。

(エ) 大和地所は、交換取得土地を取得してから譲渡するまでの間、同土地を固定資産として使用した具体的な事実が全くない。

<2> また、交換特例は、交換による取得資産の価格と譲渡資産の価格との差額がこれらの価格のうちいずれか多い価格の一〇〇分の二〇に相当する額を超える場合には適用されない(所得税法五八条二項)ところ、以下のとおり、本件交換時における交換取得土地の価格は四億六二五六万一五七九円、交換譲渡土地の価格は一億〇一八〇円であり、その差額三億六〇七六万一五七九円は、交換取得土地の価格の一〇〇分の二〇に相当する額を超えているため、本件交換には交換特例を適用することはできない。

(ア) 本件交換時の交換取得土地の価格四億六二五六万一五七九円は、大和地所が、菊島から取得した際の価格である二億四四六四万七四八〇円を基礎として、交換取得土地に最も近接する標準値(標準値番号〇〇七九‐公五三、以下「本件標準地」という。)の公示価格の上昇率を加味して時点修正したものである。

(イ) 大和地所の交換取得土地の取得価格は、大和地所とは何ら特別の関係のない菊島との間の売買契約に基づく価格であるので客観的な時価を反映しているものと認められるし、同土地の価格も本件標準地の公示価格と同様に上昇していることが推認できるから、右交換取得土地の価格の算定方法には合理性がある。

(ウ) 本件交換時の交換譲渡土地の価格一億〇一八〇万円は、大和地所の依頼により株式会社大阪鑑定所(以下「大阪鑑定所」)という。)が行った本件交換直後の昭和六二年一〇月一二日現在の同土地の鑑定評価額によったものであり、右鑑定評価は、本件交換時の同土地の価格を適正に反映したものと認められる。

(2) 分離課税の長期譲渡所得金額の計算

交換譲渡土地は、原告の所有期間が一〇年を超えているので、その譲渡に係る所得は、措置法三一条一項に該当し、その分離課税の長期譲渡所得金額は、以下のとおりになる。

<1> 収入金額 一億〇一八〇万円

右金額は、大阪鑑定所が行った交換譲渡土地の昭和六二年一〇月一二日現在の鑑定評価額によったものである。

<2> 必要経費の額 一三八〇万九七八〇円

右金額は、交換譲渡土地の取得金額である。

<3> 短期譲渡所得金額 △三四八万四九二八円

右金額は、後記(二)(3)の金額である。

<4> 長期譲渡所得金額 八四五〇万五二九二円

右金額は、所得税法三三条三項本文及び括弧書きの規定により、収入金額から必要経費の額及び短期譲渡所得金額の損失額を控除した金額である。

<5> 特別控除額 三〇〇〇万円

原告は、昭和五八年八月から同六二年一〇月までの期間、交換譲渡建物に居住していたと認められるため、措置法三五条一項一号の規定により、長期譲渡所得金額から三〇〇〇万円が控除される。

<6> 分離課税の長期譲渡所得金額 五四五〇万五二九二円

右金額は、前記<4>の金額から前記<5>の金額を控除した金額である。

(二) 分離課税の短期譲渡所得金額 〇円

交換譲渡建物は、原告の所有期間が一〇年以下であるので、その譲渡に係る所得は、措置法三二条一項二規定する短期譲渡所得に該当し、その分離課税の短期譲渡所得金額は、以下のとおりとなる。

(1) 収入金額 二二〇〇万円

右金額は、大阪鑑定所が行った交換譲渡建物の昭和六二年一〇月一二日現在の鑑定評価額によったものである。

(2) 必要経費の額 二五四八万四九二八円

右金額は、交換譲渡建物の取得価格三一九二万円を基礎として、所得税法三八条二項二号の規定により次の算定のとおり計算したものである。

所得金額三一九二万円‐償却費六四三万五〇七二円=二五四八万四九二八円

償却費=取得金額三一九二万円×〇・九×償却率〇・〇二八×年数八

(3) 短期譲渡所得の金額 △三四八万四九二八円

右金額は、前記(1)の金額から前記(2)の金額を控除したものである。

(4) 分離課税の短期譲渡所得金額 〇円

短期譲渡所得の損失額三四八万四九二八円は、前記(一)(2)<4>の長期譲渡所得の金額の計算上控除しているので、分離課税の短期譲渡所得の金額は〇円となる。

(三) 総所得金額 三億五九四五万七一四九円

(1) 雑所得の計上漏金額 三億三八七六万一五七九円

雑所得の計上漏れを認定した経緯及び根拠は以下のとおりである。

<1> 本件交換当時、大和地所は、伊藤萬株式会社(現住金物産株式会社、以下「伊藤萬」という。)の子会社から多額の融資を受けたり、その関連会社に伊藤萬から役員の派遣を受けるなど、伊藤萬とは密接な取引関係にあり、伊藤萬の代表取締役である原告は、大和地所が事業を遂行するうえで多大の影響力を持っていた。

そうすると、本件差額相当額は、大和地所が取引先である伊藤萬の当時の代表取締役である原告に対し、伊藤萬との間の円滑な取引関係を維持する目的で利益供与を行ったものと認められる。

<2> 所得税法三五条一項によれば、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいうものとされている。

<3> 原告が本件差額を大和地所から利益供与により取得したところによる所得(以下「本件利益供与所得」という。)は、右の各所得のうち利子所得から譲渡所得までの所得に該当しないことは明らかであり、右<1>で述べたように、伊藤萬と大和地所との間の円滑な取引関係を維持する目的で利益供与されたものと認められ、一時所得にも該当しないから、雑所得に該当する。

(2) 総所得金額 三億五九四五万七一四九円

原告の申告総所得金額二〇六九万五五七〇円に右(1)の計上漏金額三億三八七六万一五七九円を加算すると、原告の総所得金額は、三億五九四五万七一四九円となる。

(四) 所得税額について

(1) 総所得金額に対する所得税額 二億〇七八八万一九〇〇円

原告の総所得金額は、右(三)のとおり三億五九四五万七一四九円となるから、本件確定申告の申告書(以下「本件確定申告書」という。)に記載された所得控除の合計額一二八万三〇八〇円を差し引いた残額三億五八一七万四〇〇〇円(国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数切捨て)に、所得税法(昭和六三年法律第一〇九号改正前のもの)八九条一項に規定する税率を乗じて計算すると、所得税額は、二億〇七八八万一九〇〇円となる。

(2) 分離課税の長期譲渡所得金額に対する所得税額 一二三五万一二〇〇円

原告の分離課税の長期譲渡所得金額は、右(一)のとおり五四五〇万五二九二円となるから、国税通則法一一八条一項により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた五四五〇万五〇〇〇円に対する所得税額を措置法三一条一項二号に規定する方法により計算すると、一二三五万一二〇〇円となる。

(3) 配当控除額 八万八一〇八円

右金額は、本件確定申告書に記載された配当控除額である。

(4) 源泉徴収税額 五八六万一一六〇円

右金額は、本件確定申告書に記載された源泉徴収税額である。

(5) 申告納税額 二億一四二八万三八〇〇円

右金額は、右(1)の総所得金額に対する所得税額二億〇七八八万一九〇〇円、右(2)の分離課税の長期譲渡所得金額に対する所得税額一二三五万一二〇〇円を加算し、更に右(3)の配当控除額八万八一〇八円及び右(4)の源泉徴収額五八六万一一六〇円を控除した金額(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数切捨て)である。

2  本件決定の適法性

西宮税務署長は、本件更正に伴い、国税通則法六五条の規定に基づいて計算した金額を過少申告加算税として賦課決定したものであり、本件決定も適法である。

3  被告の主張

(一) 一事不再理の原則について

右原則は、刑事訴訟手続法上の原則であり、狭義の刑事処分に該当しない本件処分に当てはめることは失当である。

(二) 信義誠実の原則について

課税処分を信義則違反を理由として取り消すためには、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反する特段の事情が存することが必要である。そして、この特段の事情の存否の判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対して公的見解を表示し、納税者がこれを信頼して行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われ、納税者が経済的不利益を受けることになったか、また、納税者が右表示を信頼して行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかという点を考慮すべきである。

これを本件についてみると、大阪国税局での事前相談及び国税調査官の本件確定申告額を承認する旨の連絡は、いずれも右特段の事情を認めるために必要な公的見解の表示に該当しない。

(三) 本件処分の手続的適法性

憲法三一条の保障する適正手続とは、不利益な処分を課される場合について規定したものであるところ、租税債務は一定の法律要件を満たせば当然に生じるものであり不利益な処分に該当しない。

また、過去に調査を行ったことを理由に再度の調査を禁止する規定はなく、本件処分は、法定期間内に行われているから、その手続に違法はない。

さらに、白色申告書に係る更正処分については理由を付記しなけらばならないとする規定はないから、本件処分の通知書に理由付記がなくとも違法でない。

五  抗弁に対する認否

1  抗弁1について

(一) 本文のうち、分離課税の短期譲渡所得金額が〇円であることは認め、その余の主張は争う。

(二) (一)の分離課税の長期譲渡所得金額は争う。

(三) (一)(1)<1>及び<2>の交換特例の適用に関する主張は争う。

(四) (一)(2)の分離課税の長期譲渡所得金額に関する主張は争う。

(五) (二)の分離課税の短期譲渡所得金額が〇円であることは認め、その余の主張は争う。

(六) (三)の総所得金額は争う。

(七) (三)(1)の雑所得の計上漏れに関する主張は争う。

(八) (三)(2)のうち、原告の申告総所得金額が二〇六九万五五七〇円である事実は認め、原告の総所得金額は争う。

(九) (四)(1)のうち、本件確定申告書に記載された所得控除の合計額が一二八万三〇八〇円であることは認め、その余の主張は争う。

(一〇) (四)(2)は争う。

(一一) (四)(3)及び(4)は認める

(一二) (四)(5)は争う。

2  抗弁2について

本件決定の適法性に関する主張は争う。

六  原告の主張

1  一事不再理、信義則違反について

(一) 一事不再理は、元来刑事処分に関する原則であるが、税の更正処分も公権力による不利益処分という点で共通するものであり、ここでもその適用が認められるべきである。

(二) 原告は、本件確定申告の前後二回にわたり、本件交換に関する事実関係の説明や資料の提出を行ったうえ、交換特例の適用につき大阪国税局及び西宮税務署長から承認を得ていること、原告は右承認を得られなければ本件交換を撤回する予定であったのであり、右承認によりその機会を失ったこと、西宮税務署長による本件交換に関する再調査及びこれを受けて行われた本件処分は、その後の継続調査等により新たに取得された証拠により行われたものでなく、単に当時の伊藤萬及び原告に関するマスコミの報道に迎合して行われたものであることからすれば、被告のいう特段の事情の存在が認められるから、本件処分に信義則を適用すべきである。

2  交換特例違反について

(一) 仮に抗弁1(1)(一)(1)<1>(ア)ないし(エ)の事実の存在が認められるとしても、以下の事実に照らせば、これらの事実をもって交換取得土地を棚卸資産と認めることはできない。

(1) 大和地所は、交換取得土地を当初、社長用社宅用地として購入した。

(2) 交換取得土地が当初、商品土地として計上されたのは、大和地所が不動産取引業者であるところ、同社が右土地を購入した際、その購入目的を経理処理担当者に報告しなかったため、同人が、右土地を当然に商品土地と考えて経理処理したためである。

(3) 交換取得土地を売却することを目的としたアーバンライフとの間の一般媒介契約の有効期間はわずか三か月であり、その後更新されていない。

(4) 大和地所は、昭和六一年七月ころ、交換取得土地の利用方法として、同土地上に建物を新築し、右土地及び右建物を原告に賃貸することを具体的に検討しており、同土地を固定資産として利用しようとした具体的な事実が存在する。

(二) 西宮税務署長が採用した交換取得土地及び交換譲渡土地の価格の算定方法は以下に述べるように合理性を有しないから、右算定方法をもって算出した交換取得土地と交換譲渡土地との差額が交換取得土地の一〇〇分の二〇に相当する額を超えることを理由に交換特例の適用を否認した本件処分は違法である。

(1) 西宮税務署長は、二つの物件の価格の差額を算出するにあたり、それぞれの価格算出方法を異にしており、右算出は合理性を有しない。

(2) 西宮税務署長が交換取得土地の価格算出の基準とする大和地所と菊島との取引価格は、あくまで右二当事者間において成立した価格に過ぎないから、付近の取引事例との比較や諸々の事情の考慮なしに右価格をもって客観的な時価とすることはできない。

(3) 西宮税務署長が算出した交換取得土地の価格は、同土地に近接した標準地の公示価格の本件交換後の日までの上昇率を加味して算出したものであるが、公示価格はいわゆるバブル景気により本件交換後に急激に上昇したものであり平均して上昇したものではないから、右算定方法に合理性はない。

(4) 西宮税務署長は交換譲渡土地の価格を大和地所の依頼により大阪鑑定所が行った鑑定評価額により求めているが、大和地所が、本件交換後の昭和六三年五月、右土地を二億五〇〇〇万円で第三者に売却していることに鑑みれば、右鑑定評価額は客観的な取引額としては低額なものと考えられる。

3  所得税基本通達(以下「本件通達」という。)58‐12違反

仮に客観的合理的な時価による交換取得土地と交換譲渡土地の差額が交換取得土地の一〇〇分の二〇に相当する金額を超えるとしても、以下のような事情に鑑みれば、原告及び大和地所は、いずれも経済的に合理性のある取引であると判断して本件交換を行ったものと認められ、本件通達58‐12により交換特例が適用されるべきであるから、その適用を否定した本件処分は右通達に反し違法である。

(一) 原告は、昭和六〇年ころから、接待等のため広い住居が必要となり、交換譲渡土地を自己資金で買い換えようと考えていた。

(二) 原告は、右土地が高台に位置し眺望が優れているうえ、閑静な高級住宅地にあったため、愛着を持っていたが、反面、駅から離れており右土地までの坂道を上るのが年齢的にきつくなっていた。

(三) 交換取得土地は、交換譲渡土地の約二倍の広さがあるうえ、駅に近接しており便利であるが、反面、線路や駅に近く騒音や振動が激しいうえ、交換により取得するのは土地のみであるため、新たに建物を建築する必要があった。

4  事実誤認について

西宮税務署長が利益供与の認定の根拠とする事実は、以下に述べるようにいずれもその根拠となるものではなく、西宮税務署長の右認定は事実誤認である。

(一) 大和地所への多額の融資は、伊藤萬とは事業目的、代表者を異にする同社の子会社により同社の利益のために行われたものであり、原告が当時代表者を務めていた伊藤萬とは関連がない。そして、原告は、右融資に関して決裁権限を有していなかったから、利益供与を受ける理由がない。

(二) 大和地所の伊藤萬に対する企画料の支払は、大和地所が行う不動産取引に関し伊藤萬が行った指導、助言及び融資の斡旋の対価としてなされたものであり、何ら利益供与の根拠となるものではない。

(三) 大和地所の関連会社への役員の派遣は、同社が伊藤萬の子会社であることから行われたものであり、何ら利益供与の根拠となるものではない。

理由

第一被告の本案前の主張について

原告の行った本件確定申告における所得金額が二〇六九万五五七〇円であることは当事者間に争いがないところ、原告は、本件処分には手続的な違法事由があり、その瑕疵は本件処分全体に及んでいるから、本件処分全部の取消しを求める訴えの利益がある旨主張する。しかし、本件のような増額更正処分は、申告による税額等の確定の効力を全面的に失わせて新規に納税義務の範囲を確定する効力を生ぜしめるものではなく、増差額に関する部分についてのみ右のような効力が生ぜしめるものであるから、本件処分に手続的な瑕疵が存在したか否かを論ずるまでもなく、本件処分のうち原告が申告した所得金額を超えない部分について取消しを求める訴えの利益はない。

第二請求原因について

請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

第三抗弁について

一  一事不再理、信義則及び適正手続違反について

1  一事不再理の原則について

右原則は、憲法三九条に由来する刑事訴訟手続法上の原則であり、狭義の刑事処分以外の行政処分に適用することはできないから、原告の主張は理由がない。

2  信義誠実の原則について

租税法律関係には租税法律主義の原則が採られているから、租税法規に適合する課税処分を信義則違反を理由に取り消すことは限定的に考えるべきであり、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するという得るような特別の事情が存する場合にはじめて認められると解するのが相当である。そして、この特段の事情の存否の判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼して行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われたため、納税者が経済的不利益を受けることになったか否か、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼して行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないか否かという点を考慮すべきである。

これを本件について検討するに、証拠(甲三二、三四、乙四三、証人小林哲夫(以下「小林」という。)、同河村憲治)によれば、原告は、伊藤萬の取締役茨木巧(以下「茨木」という。)らを通じて、本件確定申告前に大阪国税局に交換取得土地が固定資産であることを前提に交換特例の適用があるかについて相談し、適用がある旨の回答を得たこと、本件確定申告後も、原告は茨木らを通じ、西宮税務署の小林調査官からの本件確定申告内容についての調査において、本件交換に関する事実関係の説明や資料の提出を行った結果、小林調査官から、本件確定申告額が適正である旨の承認を受けたことが認められる。

しかしながら、大阪国税局の事前の税務相談に対する回答は、相談者の主観的、恣意的事実関係を前提としたうえでの税法適用上の意見にとどまるのであり、将来的に課税処分を約束したり拘束したりするものではないし、また、小林調査官の本件確定申告額の承認は、納税者に対する法律上の効果を生ぜしめる行為でなく、納税者の申告に対する税務官庁の一応の態度を表明するものに過ぎないから、いずれも税務官庁の公的見解の表示に該当しない。

してみると、本件処分は税務官庁の公的見解に反する処分とはいえないから、本件処分について信義則の法理を適用すべき余地はないというべきである。

3  適正手続違反について

憲法三一条の保障する適正手続とは、刑罰その他不利益な処分を課せれる場合について規定したものであるところ、租税債務は一定の法律要件を満たせば当然に生じるものであり、本件処分も法律上当然に納付すべき税額を原告に課すものに過ぎないから不利益処分に該当しない。

そして、所得税法及び関係税法においても、過去に調査を行ったことを理由に再度の調査を禁止する規定はなく、本件処分は、国税通則法七〇条一項に定める期間内に行われたものであるから、本件処分の手続に違法はない。

また、原告は本件処分の通知書に理由付記がない点を問題とするが、青色申告書の場合と異なり白色申告書に係る更正処分については、理由を付記しなければならないとする規定はない(所得税法一五五条二項参照)から、理由を付記しなくても違法でない。

二  本件交換に対する交換特例の適用の可否について

1  まず、交換取得土地が固定資産と認められ本件交換に交換特例を適用することができるかにつき検討する。

2  証拠(甲一ないし八、乙七及び八の各1、2、九、三八、四三、四四、証人小林、同牛嶋幸司(ただし、甲一、二の後記採用しない部分を除く。)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 交換取得土地は、当初、大和地所の代表取締役社長青山長(以下「青山」という。)が、自宅用地として購入することを検討したが、結局これを取り止め、昭和六〇年一〇月二八日、不動産取引を業とする大和地所が購入した。

(なお、原告は、大和地所は当初、社長の社宅用地として右土地を取得したものである旨主張し、甲一、二にはこれに副う記載があるが、これらは原告自身の陳述書である甲三六及び乙四三、証人小林の証言に照らし採用できない。)

(二) 大和地所は、右購入資金につきイトマンファイナンス株式会社(現御堂筋ファイナンス株式会社、以下「イトマンファイナンス」という。)から融資を受けた際、同土地が転売見込みであり短期に返済できることを理由に同土地の担保提供を行わなかった。

(三) 大和地所は、昭和六一年二月二七日、右土地を商品土地の仕入れとして経理処理をした。この経理処理は、同社の経理処理に関与していた税理士事務所員が右青山から同土地上に事業計画があることを聞いて行ったものである。

(四) 大和地所は、右土地を取得した直後の昭和六一年四月二二日、これを売却する目的でアーバンライフとの間で一般媒介契約を締結した。

(五) 大和地所は、右土地を取得した日を含む昭和六一年三月決算期及び翌六二年三月決算期において同土地を商品土地として棚卸資産に計上した。

(六) 大和地所は、昭和六一年七月一二日、原告の資金で右土地上に建物を建築し、同土地及び建物を原告に賃貸する旨の確認書を取り交わした。

(七) 大和地所は、右建物につき建築確認申請を行い、昭和六一年一一月から建築に着手したが、原告との話し合いの中で、右賃貸借を取り止め、右建物を原告に売却し、右土地と原告所有の交換譲渡土地及び交換譲渡建物を等価で交換することになり、同六二年六月二三日、その旨の覚書を作成した。

(八) 大和地所は、本件交換を行った日を含む昭和六三年三月決算期において右土地を棚卸資産から固定資産に振り替えた。この振替は、同社の経理処理に関与していた税理士事務所員が右青山からの指示によりその理由も解らないまま行われたものである。

3  右認定事実のとおり、大和地所が交換取得土地の購入資金の融資を受けた際、同土地が転売見込みであることを理由に担保提供を行わなかったこと、同社が右土地の取得後、これを事業計画があることを理由に商品土地の仕入れとして経理処理をしていること、同社が右土地を取得直後、これを売却する目的で第三者との間で一般媒介契約を締結していること、同社が右土地を取得した日を含む決算期から本件交換が行われた日を含む事業年度の直前の決算期まで棚卸資産として計上していること、大和地所は、昭和六三年三月決算期において右土地を棚卸資産から固定資産に振り替えているが、これは右青山からの指示により行われたものであり、経理処理担当者にもその理由が解らなかったこと、大和地所は、右土地を原告に賃貸する旨の確認書を取り交わしてはいるが実際に賃貸するには至っていないこと、同社は不動産取引を業とするものであり、同社が取得した土地は通常、商品土地であると考えられることを併せ考えると、右土地は大和地所の固定資産ではないと認めることができる。

よって、西宮税務署長が本件更正に当たり、右土地が大和地所の固定資産でないことを理由に本件交換への交換特例の適用を否認した点に何ら違法はない。

三  交換取得土地及び交換譲渡土地の価格の算定方法の適否について

1  次に、西宮税務署長の交換取得土地及び交換譲渡土地の価格の算定方法の適否について検討する。

2  証拠(乙五、六の1ないし3、一〇の1ないし5、一二の1、2、四四、四六)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 西宮税務署長は、本件交換時の交換取得土地の価格を、大和地所が菊島から取得した際の価格である二億四四六四万七四八〇円を基礎として、交換取得土地に最も近接する本件標準地の公示価格の昭和六二年九月(本件交換時)までの上昇率を加味して次の算式により算出した。

二億四四六四万七四八〇円×昭和六二年九月現在の修正公示価格(六七万六二五〇円)/同六〇年一〇月現在の修正公示価格(三五万七六六六円)=四億六二五六万一五七九円

右昭和六二年九月現在の修正公示価格は、昭和六二年一月一日現在の公示価格三八万〇〇〇〇円+(昭和六三年一月一日現在の公示価格七七万五〇〇〇円、昭和六二年一月一日現在の公示価格三八万円)×(九か月/一二か月)という算式により算出した。

また、右昭和六〇年一〇月現在の修正公示価格は、昭和六〇年一月一日現在の公示価格三五万一〇〇〇円+(昭和六一年一月一日現在の公示価格三五万九〇〇〇円‐昭和六〇年一月一日現在の公示価格三五万一〇〇〇円×(一〇か月/一二か月)という算式により算出した。

(二) 西宮税務署長は、本件交換時の交換譲渡土地の価格を大和地所の依頼により昭和六二年一〇月二〇日に大阪鑑定所が行った交換譲渡土地の同月二日現在の鑑定評価額により、一億〇一八〇万円と算定した。

3  右算定方法の合理性につき検討する。

(一) 大和地所の交換取得土地の取得価格は、同社とは何ら特別の関係にない菊島との間で締結された売買契約に基づく価格であり、特に売り急ぎ、買い急ぎといった事情を認めるに足りる証拠もないから、昭和六〇年一〇月当時の交換取得土地の客観的な時価を反映しているものと認められる。また、標準地は、近隣地域(標準地を含む地域で、住宅地、商業地等当該標準地の用途と土地の用途が同一と認められるもの)内で土地の利用状況、環境、地積、形状等について標準的な画地を選定したものであり、その公示価格は、近隣地域の標準的な画地の価格水準を示し、一般の土地取引に対して指標を与えるものである。したがって、交換取得土地の価格は、本件標準地の価格と同様に変動していることが推認できる。

そうすると、大和地所が菊島と売買契約を締結した昭和六〇年一〇月を起点として、本件交換が行われた昭和六二年九月までの本件標準地の上昇率を算定し、大和地所の交換取得土地の取得価格に当該上昇率を乗じて算定した西宮税務署長の右交換取得土地の価格の算定方法は合理性があるというべきである。

この点、原告は、公示価格はバブル景気により本件交換後に急激に上昇したものであり平均して上昇したものでないから、本件交換後の日まで上昇率を平均化して用いる西宮税務署長の算定方法には合理性がない旨主張する。しかし、本件交換は昭和六二年九月に行われているところ、乙一によれば、大阪圏では昭和六二年度に住宅地の地価がかなり上昇したが年末にはこれが鈍化した事実が認められ、本件交換日までの上昇率を平均化して用いても交換取得資産の価格が必要以上に高額となることはないから原告の右主張は採用できない。

(二) 大阪鑑定所が行った交換譲渡土地の鑑定評価は、不動産鑑定評価基準に従って行われているところ、右基準は不動産鑑定士が鑑定を行うに際し拠り所となる合理的かつ実行可能な基準として定められたものであり、合理性を有するものと認められる。そして、右鑑定評価は、本件交換直後に行われており、その価格時点も本件交換直後であるうえ、その評価額が低くなるように行われた事情も認められないから、本件交換時の交換譲渡土地の価格を適正に反映したものと認められる。

よって、西宮税務署長の右交換譲渡土地の本件交換時の価格の算定方法には合理性があるということができる。

四  原告は、本件処分が本件通達58‐12に違反すると主張するが、右通達はあくまで固定資産の交換が前提となっているところ、本件交換における交換取得土地が固定資産でないことは前提となっているところ、本件交換における交換取得土地が固定資産でないことは前記のとおりであるから、原告の右主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

五1  以上によれば、原告の分離課税の長期譲渡所得金額の計算は、抗弁1(一)(2)のとおりであることが認められるから、その金額は五四五〇面五二九二円となる。

2  また、原告の分離課税の短期譲渡所得金額の計算は、抗弁1(二)のとおりであることが認められるから、その金額は〇円となる。

六  本件差額相当額が大和地所から原告への利益供与に当たるかについて

1  前記三で判示したように西宮税務署長の交換取得土地及び交換譲渡土地の価格の算定方法は合理性があり、乙一二の1によれば、譲渡建物の価格は二二〇〇万円であることが認められるから、本件差額は三億三八七六万一五七九円となる。

(なお、原告は本件差額を算出するに当たり、二つの物件の価格の算出方法を異にするのは妥当でない旨主張するが、前記三で判示したように西宮税務署長の右二つの物件の価格の算出方法はそれぞれ合理性を有するところ、原告は価格の算出方法を異にした場合の問題点を具体的に主張、立証していないから、右主張は採用できない。)

そこで、本件差額相当額が大和地所から原告への利益供与に当たるかについて検討する。

2  証拠(甲三六、乙一三の1ないし5、一五の1ないし4、一六、一七、一八の1、2、二〇の1ないし5、二二の1、2、二三ないし二六、二七の1、2、二八の1ないし7、二九の1ないし7、三〇の1ないし4、三一の1、2、三二の1ないし5、三三の1ないし3、三四の1ないし4、三五の1ないし3、三十六の1ないし5、三七ないし三九、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告の伊藤萬における地位

原告は、住友銀行常務取締役、東京人形町支店長から伊藤萬に出向し、昭和五〇年一一月、同社の代表取締役社長に就任し、以後、平成三年一月二五日に代表取締役を解任されるまで約一五年間、同社の社長の地位にあった。原告が社長に就任した当時の伊藤萬は、繊維専門商社であり、繊維業界の斜陽化により多額の含み損を抱え、経営状態は非常に悪かった。原告は、同社の社長就任後、住友銀行の支援を得ながら、不動産分野、ファイナンス分野、レジャー、スポーツ分野に進出し、同社を繊維専門商社から総合商社に転化して復興させ、同社で大きな権限を有していた。そして、原告が同社の代表取締役を解任された当時、同社には金融等を業とするイトマンファイナンス、不動産取引を業とする伊藤萬不動産販売株式会社(現御堂筋総合興産株式会社、以下「「伊藤萬不動産販売」という。」等を中心として、約七、八〇社の子会社があり、イトマングループを形成していた。

(二) イトマングループと大和地所との融資関係

大和地所は、イトマングループの取引業者のうち五指に入る大口融資先であり、以下のように同グループから多額の融資を受けていた。

(1) イトマンファイナンスは、大和地所に対して、昭和六〇年五月から平成元年九月まで常に残額一三億以上の融資を行っていた。特に本件交換後は右融資額が増加しており、常に毎月一億以上、残額六六億円以上の融資が行われ、平成元年九月には残額が三四七億円余りにも達していた。そして、右融資の多くは、一回当たり一億円を超しており、三億円を超すものも数多くあった。

イトマンファイナンスが融資を行う際には、伊藤萬の決裁を受ける必要があったところ、有担保貸付金(土地、建物については当該貸付金の八〇パーセント相当額以上の担保物件を有する場合)の際には三億円、無担保貸付金(担保物件なき貸付金及び貸付金の回収保全担保として当該貸付金の八〇パーセント未満の評価物件しかない場合)の際には一億円を超える融資については、右決裁として親会社である伊藤萬の社長、すなわち原告の決裁を受ける必要があった。

(2) 大阪市淀川区宮原一丁目一九番ないし四の土地及び同土地上の建物に対する担保設定

大和地所所有の右物件に対し、既に三井ファイナンスサービス株式会社により、極度額合計一一二億五〇〇〇万円の根抵当権が設定されていたにもかかわらず、本件交換後にイトマンファイナンスにより極度額合計三一億二〇〇〇万円の、伊藤萬により極度額八五億円の、伊藤萬不動産販売により極度額合計一三億三〇四〇円の根抵当権が設定されており、イトマングループにより極度額合計一二九億五〇四〇万円の根抵当権が設定されている。なお、右物件の正確な価格は解らないが、一説には地上建物の権利部分で四二億五〇〇〇万円、土地部分で一〇〇億円といわれている。

(3) 大阪市中央区西心斎橋二丁目一〇番一ほか六筆の土地及び同所一〇番地の一土地上の建物に対する担保設定

大和地所所有の右物件に対し、本件交換後にイトマンファイナンスにより極度額合計五七億円の根抵当権が設定されている。

(4) 大阪市中央区西心斎橋二丁目三九番一ほか一七筆の土地及び同所三九番一ほか五筆の土地上の建物、同所四二番地三ほか一筆の土地上の建物に対する担保設定

大和地所所有の右物件に対し、本件交換後にイトマンファイナンスにより極度額一五八億四〇〇〇万円の根抵当権が設定されている。

(5) 宝塚市清荒神五丁目一六番一ほか二八筆の土地に対する担保設定

大和地所所有の右物件に対し、イトマンファイナンスにより昭和六一年一〇月三一日に、極度額八四〇〇万円の根抵当権の設定と昭和五十八年三月一六日に極度額一五億円で設定された根抵当権の極度額二九億一六〇〇万円への変更がされているうえ、本件交換後には伊藤萬により債権額七一億一〇〇〇万円の抵当権設定仮登記が行われている。

右物件は、大和地所が分譲マンション等の建設による開発を計画した通称「うさぎ山」といわれる山林の一角であるが、うさぎ山には高圧電線用の鉄塔が立ち、中国自動車道が通っているうえ、地元住民が環境の悪化を理由に開発反対運動を行っており、開発に障害のある土地である。実際、大和地所は、同土地を平成二年五月三〇日付けで売買契約書により、豊嶋建設株式会社に一旦売却したが、平成二年六画月二九日には右契約は解除されている。

(6) 三重県一志郡嬉野町大字森本宇毘沙門九八〇番一ほかの土地に対する担保設定

大和地所の代表取締役である青山が三重県嬉野町にゴルフ場を開発する目的で昭和六二年一〇月一日に設立した嬉野国際観光株式会社(以下「嬉野国際観光」という。)所有の右物件に対し、本件交換後に伊藤萬不動産販売により、合計九八億円の根抵当権が設定されている。

(三) 伊藤萬と大和地所との取引関係

大和地所は、同社が行う不動産売買に関し、伊藤萬が取引先の信用調査売買価格に関する情報提供等の指導、助言及び資金の融資斡旋等を行ったことに対し、伊藤萬との昭和六一年一〇月三〇日付け覚書に基づき企画料合計四億円を、同六三年一月二三日付け覚書に基づき企画料合計二億円を、同年七月三〇日付け覚書に基づき報酬一億九二五〇万円を支払っている。

大和地所は、同社が第三者との間で締結した売買契約及び再売買契約に関し、伊藤萬が企画、仲介及び斡旋を行ったことに対し、平成元年二月二日付け確認書に基づき手数料一億四〇〇〇万円を支払っている。

大和地所は、伊藤萬が伊藤萬不動産販売から大和地所に対する融資の斡旋を行ったことに対して、平成元年三月二三日付け覚書に基づき融資斡旋手数料五〇〇〇万円を支払っている。

(四) 伊藤萬と大和地所との人的関係

(1) 伊藤萬は、大和地所の不動産関連会社である株式会社日本リロケーションセンターに出資して伊藤萬の子会社とし、エムアイ・ホームサービス株式会社に社名変更し、昭和六一年六月二七日には、伊藤萬の役員である木下義美(以下「木下」という。)及び大塚要(以下「大塚」という。)がその役員に就任している。

(2) 伊藤萬の役員である原告、木下、茨木及び大塚の四名は、平成二年三月一二日、大和地所の代表取締役である青山が設立した前記嬉野国際観光の役員に就任し、うち原告、木下及び大塚は代表取締役に就任した。さらに、原告は嬉野国際観光が開発したゴルフ場の理事長に就任する予定であった。

3  右で認定した事実によれば、大和地所は、イトマングループの取引業者のうち五指に入る大口融資先であり、イトマンファイナンスより昭和六〇年五月から平成元年九月まで常に残額一三億円以上の融資を受けていたこと、大和地所所有の物件に対しイトマングループから総極度額(被担保債権額を含む)五四四億〇〇四〇万円もの担保設定がされており、そのうちいくつかは担保価値を超えると思われる設定や担保価値に疑問のある物件への設定であったこと、大和地所は、同社が行う不動産売買等の取引に関し、伊藤萬に指導、助言及び資金の融資斡旋等を依頼して九億八二五〇万円もの企画料、報酬を支払っていたうえ、関連会社に伊藤萬から原告外役員の派遣を受けていたことを認めることができ、右事実によれば、本件交換当時、大和地所とイトマングループとは非常に密接な取引関係にあったということができる。

また、原告は、本件交換当時、約七、八〇の子会社を有しイトマングループを形成する伊藤萬の社長として大きな権限を有していたこと、イトマンファイナンスから大和地所への融資の多くは、一回当たり一億円を超しており、三億円を超すものも数多くあったところ、有担保貸付金では三億円、無担保貸付金では一億円を超える融資の際には、伊藤萬の社長である原告の決裁を受ける必要があったことからすれば、原告は、大和辞書のイトマングループとの取引関係において大きな利害関係を有していたといえる。

そして、本件差額が三億三八七六万一五七九円と高額であるところ、本件交換後のイトマンファイナンスから大和地所への融資額が常に一億円以上、残額六六億円以上と増加し、平成元年九月には残額が三四七億円余にも達していること、イトマングループから大和地所所有の物件に対する担保設定の多くは本件交換後に行われたものであることに鑑みれば、本件差額は、大和地所がイトマングループとの円滑な取引関係の維持を目的とする原告への利益供与に当たると認めるのが相当である。

この点、原告は、原告及び大和地所はいずれも本件交換を経済的に合理的な取引であると認識しており、右のような額の本件差額が存在することの認識がなかったから、これを利益供与とするのは不当である旨主張し、原告本人(甲三六の陳述書を含む。)はこれに副う供述をする。

しかし、証拠(乙一、二の1、原告本人)によれば、交換取得土地は交換譲渡土地の二倍以上の面積を有するうえ、その場所も夙川駅のすぐ側にあり土地の利便性が高いのに対して、交換譲渡土地は高台にあり交通の便が悪いこと、原告は交換譲渡土地の時価を一億二〇〇〇万円、交換譲渡建物の時価を一五〇〇万円と算定しているところ、原告自身、大和地所が交換取得土地を二億四〇〇〇万円で購入したのを認識していたことに鑑みれば、原告及び大和地所が本件交換を経済的に合理的な取引であると認識していたとは、認められず、ほかに右事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は採用できない。

七  本件利益供与所得が雑所得に該当するかについて

所得税法上、所得の種類は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得に区分されて規定されているところ(二三条ないし二八条、三〇条ないし三五条)、本件利益供与所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、及び譲渡所得に該当しないことは明らかである。

また、一時所得は、「労務その他役務の対価としての性質を有しないもの」(所得税法三四条一項)であるところ、前記六で判示したように右利益供与は、大和地所がイトマンフループとの円滑な取引関係を維持する目的で行われたものであり対価性を有するから、一時所得にも該当しない。

そして、雑所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずいれにも該当しない所得をいう(所得税法三五条一項)から、本件利益供与所得は雑所得に該当する。

八1  以上によれば、三億三八七六万一五七九円の雑所得の計上漏れが認められ、これに本件確定申告における総所得金額二〇六九万五五七〇円を加算すると、原告の総所得金額は西宮税務署長が算定した三億五九四五万七一四九円となる。

2  原告の総所得金額は右のとおり三億五九四五万七一四九円となるから、原告の総所得金額に対する所得税額の計算は、抗弁1(四)(1)のとおりとなり、その金額は西宮税務署長が算定した二億〇七八八万一九〇〇円となる。

3  原告の分離課税の長期譲渡所得金額は、前記五1のとおり五四五〇万五二九二円となるから、これに対する所得税額の計算は抗弁1(四)(2)のとおりとなり、その金額は西宮税務署長が算定した一二三五万一二〇〇円となる。

4  原告の配当控除額八万八一〇八円及び源泉徴収額五八六万一一六〇円は当事者間に争いがない。

5  右2の総所得金額に対する所得税額二億〇七八八円一九〇〇円、右3の分離課税の長期譲渡所得金額に対する所得税額一二三五万一二〇〇円を加算し、前記4の配当控除額八万八一〇八円及び源泉徴収額五八六万一一六〇円を控除とする原告の申告納税額は西宮税務署長が算定した二億一四二八万三八〇〇円(国税通則法一一九条一項により一〇〇円未満の端数切捨て)となる。

九  以上によれば、前記八で認定した税額と同額でなされた本件更正は、適法であり、その取消しを求める原告の請求は理由がない。

一〇  本件決定の適法性

本件決定は、右のとおり適法である本件更正を前提に国税通則法に定められた税率を乗じて行われたものであるから適法と認められ、その取消しを求める原告の請求には理由がない。

第四結論

よって、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 徳田園恵 裁判官 桃崎剛)

物件目録

一 所在 兵庫県西宮市苦楽園六番町

地番 四一番

地目 宅地

地積 二七〇・七八平方メートル

二 所在 兵庫県西宮市苦楽園六番町四一番地

家屋番号 四一番

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 一〇七・一四平方メートル

二階 八五・七二平方メートル

三 所在 兵庫県西宮市相生町

地番 一三七番

地目 宅地

地積 五五七・〇九平方メートル

別表

課税の経緯

<省略>

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